THE END OF
EVANGELION
REPORT
第25話 Air
零号機の自爆によって湖と化した第三新東京市のほとり，カヲルと初めてあった場所に一人たたずむシンジ．その表情は影になり伺い知ることは出来ない．
303病室．レイもミサトも怖い．他にすがる相手のいないシンジはアスカに救いを求める．しかし，アスカは答えはしない．
「ねえ，アスカ，アスカ！」
アスカを揺さぶるシンジ．強く揺さぶった拍子にアスカの胸元が露わになる．
荒い，息．閉じられた鍵．
「最低だ，俺って」
第二発令所．
三人のオペレーターがこれからのことを話している．すべては終わったはずだった．しかし，未だ第一種警戒態勢は解かれていない．見当もつかない自分たちの未来．
「補完計画の発動まで，自分たちで粘るしかないか．」
それぞれが，それぞれの決意を胸にしたのだろうか．
旧第三新東京市を見下ろす道路．ミサトの口から明らかにされる人類補完計画の真相．真相を知った彼女の胸に去来するものは，碇だろうか．それとも加持への思いなのだろうか．
漆黒の会議室．ついに対立するゲンドウ・冬月とゼーレ．ゼーレの望み，リリスの分身たる初号機による補完計画の遂行．ゲンドウ・冬月の望み，人は，新たな世界へ進むべきなのだという想い．
「死は何も生み出しませんよ．」
「死は，君たちに与えよう．」
ついに決裂する，ゲンドウとゼーレ．
「人は，生きていこうとするところにその存在がある．それが，自らEvaに残った彼女の願いだからな．」
彼らの望みは，ユイの望みでもあるのだろうか．
夜．自らの部屋で目を覚ますレイ．煌々と突きが月が世界を照らす．レイは部屋を出ていく．壊されたゲンドウの眼鏡，壊れた絆の印を残して．
どことも知れぬ場所で眠るシンジ．止まったままのSDAT．すでに，彼にとって外界は意味をなしていないのだろう．
本部施設内．自らの手で真実にたどり着いたミサト．しかし，時刻がAM06:00を指した瞬間，ノートのディスプレイにDELETの文字が踊る．
「気づかれた！？．．．．いえ，違うわ．」
そう，それは死闘への，補完へのプロローグであった．
「始まるわね．」
第二発令所．そう，始まったのだ．敵の目標はネルフの頭脳にして心臓，MAGIである．
「彼我兵力差は１対５，分が悪いぞ．」
不利な状況は打開すべく，ゲンドウは一人の女性を呼び寄せる．
ミサトは日向からA-801の発令を聞かされる．
「特務機関ネルフの特例による法的保護の破棄，及び，指揮権の日本国政府への委譲」，最後通告である．だが，それさえ予想の範囲であったかのように彼女は冷静に受け止める．しかし，彼女は予想もしなかったことに直面する．
「伊吹です．いま赤城博士がプロテクトの作業に入りました．」
「リツコが！？」
カスパーの中．女としての母親の胎内でリツコは作業を続ける．
「私，馬鹿な事してるわ．ロジックじゃないもんね，男と女．そうでしょう．かあさん．」
果たして，彼女の望みはどこにあるのだろうか．
第二発令所．オペレーターのあいだに楽観的空気が流れる．しかしミサトは，そして冬月とゲンドウも知っていた．
「マギは前哨戦にすぎん．奴らの目的は本部施設，及び残るEva２体の直接占拠だな．」
一時の勝利はさらなる死闘を呼び寄せるだけだった．
「出来うるだけ穏便に進めたかったんだが，致し方あるまい．本部施設の直接占拠を行う． 」
箱根山中．
「始めよう．予定通りだ．」
下生より姿を現す男達．殺戮のプロ，戦略自衛隊の人間である．
人を殺すための人が動き出したのである．
「やはり，最後の敵は同じ人間だったな．」
そう，人間と人間の戦いが始まるのである．
次々と破壊される，わずかに残った地上施設．そしてついに本部への侵攻が始まった．
敵の目標はEvaの占拠とパイロットの排除．ミサトはチルドレンをEvaのなかに避難させるように指示する．アスカは303病室．しかし，レイは所在不明である．
その時，レイはLCLのなかを漂っていた．外界の，人間同士の争いには興味がないとでも言うように．
地底湖に隠される弐号機．続いて初号機の射出が指示される．しかしシンジは自らの殻に閉じこもったまま，手の届かない場所にあった．
「占拠は時間の問題」．この追いつめられた状況下，最高司令官たるゲンドウは，その席を離れる．
「冬月先生，後を頼みます．」，という言葉を残し．
「わかっている，ユイ君によろしくな」．そう，彼らの補完計画が始まるのだ．
圧倒的に不利な状況．所詮殺戮のプロには抗し得ないのだろう．次々と殺される，いやものの様に壊されていくネルフ職員．
密閉された部屋に向かって，炎の舌をのばす火炎放射器．恋人なのだろうか，男性職員の亡骸を泣きながら引きずる女性に向かってたたき込まれる，容赦ない銃弾．すでに戦闘でなく，一方的な殺戮の様相を呈していた．
ミサトはベークライトの注入により侵攻を防ぐことを決定する．その時，シンジの救出に向かった部隊が足止めされていることを知る．そして，自らシンジの救出に向かうことを決意する．
ついに発令所に突入する，戦自の部隊．応戦を拒否するマヤ．
「馬鹿，撃たなきゃ死ぬぞ！」
そう，ここには道徳は存在しない．戦場なのである．
NENO
GENESIS EVANGEILON
EPISODE 25
LOVE IS DISTRACTIVE
ターミナルドグマ，ダミープラグ・プラント．レイはここにいた．そこへ，ゲンドウが現れる．
「約束の時だ，さあ，いこう．」
「Evaパイロットは発見次第射殺，非戦闘員への無条件発砲も許可する．」
そう，ここは戦場なのである．
ついに発見されるシンジ．抵抗もせず，自らの殻に閉じこもるシンジ．しかし，間一髪で間に合ったミサトに救出される．
しかし，ベークライトの注入により初号機のシンジの接触は阻止されつつあった．シンジに戦うことを，現実を突きつけるミサト．しかし，シンジはそれを拒否し，アスカに救いを求める．
「何甘ったれたこといてるのよ．あんたまだ生きてるんでしょ．だったらしっかり生きて，それから死になさい．」
第二発令所．戦闘はまだ続いている．MAGIのおかげで相手も強気なまねが出来ないというのが本音のようだ．しかし，BC兵器，N2兵器に対する防御は甘い．その危惧が現実のものとなる．
弾道弾N2兵器による直撃．これによりジオフロントの外殻が破壊されれ，ネルフ本部が露呈してしまう．続けての着弾．マヤが叫ぶ．
「ねぇ，どうしてそんなにEvaがほしいの！？」
彼女にはこの戦いの意味が分からない．
「サードインパクトを起こすつもりなのよ．使徒ではなく，Evaシリーズを使ってね．」
ミサトの口から15年前のセカンドインパクトの真相と，ゼーレの目的が語られる．そう，セカンドインパクトは人間に仕組まれたものだ．しかしそれは，被害を最小限にするためのものであった．そして人間もリリスから生まれた18番目の使徒であると．
生き残る方法は，Evaシリーズをすべて消滅させること．しかしシンジは答えようとしなかった．
第弐新東京市，首相官邸．
事実を知らないもの達．何も知らず，目の前に与えられた情報に満足するもの達．愚かな人間の象徴．
初号機は戦自によって制圧された．そして弐号機も発見された．
弐号機の中．アスカが意識を取り戻す．それを待っていたかの様に始まる，爆雷による攻撃．
「死ぬのはいや，死ぬのはいや．」
何かにとりつかれたようにつぶやき続けるアスカ．
しかし，その脳裏に母の言葉が浮かび上がる．
（死んではだめ．）
（殺さないわ．）
「死ぬのは，いやぁぁぁぁ！」
絶叫と共に，現れるイメージ．森の中．暖かい光．そして，母に手を取られる，アスカ．
「ママ，ここにいたのね．ママ！！」
湖面を貫いて現れる，十字の閃光．湖面に姿を現す弐号機．湖面に浮かぶ駆逐艦で砲弾を受け，それを自衛隊に向けて投げつける．
「ママ，ママ，解ったわ！！」
AT FILEDを身に纏い，空を飛翔ぶ弐号機．
「AT FILEDの意味！！」
戦略自衛隊の重戦闘機を蹴散らし，ミサイルを受け止める弐号機．
「私を守ってくれてる！！私をみてくれてる！ずっと，ずっと一緒だったのね，ママ！！」
弐号機起動．その知らせはケージへ急ぐミサトとシンジの元にも届けられた．アスカ復活の方にわずかに反応するシンジ．
対人戦闘には圧倒的な力を見せた戦略自衛隊も弐号機には抗し得ない．アンビリカルケーブルの切断を指示するも，弐号機の圧倒的な力をそぐことは出来ない．
「忌むべき存在のEva，またも我らの妨げとなるか．」
「やはり毒は，同じ毒を持って制すべきだな．」
ゼーレは新たな決断を下す．そう，量産型エヴァンゲリオンの投入である．
赤い，血の色をした，そして黒く「KAWORU」の刻印がされたエントリープラグが挿入される．巨人機から解き放たれた白いEvaは，白い翼を広げ，天使のようにジオフロントに舞い降りる．その足元にいる，戦自の隊員を踏みつぶしながら．此処からは，人と人の戦いではない．EvaとEvaとの戦いが始まる．
「S2機関搭載型を九体も，全部投入とは，大げさすぎるな．まさか，ここで起こすつもりか．」
そう，毒を持って毒を排除するだけではない．ゼーレにはもう一つの思惑があった．
復活したアスカに対し，ミサトはEvaシリーズ殲滅を指示する．そして初号機への進路を確保する．しかしシンジは未だ戦おうとはしない．彼を引きずり，ROUTE 20へ行く．
エントリープラグ内，アスカ．
「必ず殲滅ぅ，ね．ミサトも病み上がりに軽くいってくれちゃって．残り三分半で九つ，一匹につき20秒しかないじゃない．」
駆ける弐号機．量産型の一機に襲いかかり，その頭部を容易く破壊する．その量産型を頭上に掲げ，さらに胴体を断ち切り，流れ出る血を身に浴びる．
「Achte!」
アスカの，新らたな，そして最後の戦いは始まった．
ついに，ROUTE 20にたどりついたミサトとシンジ．その一瞬の隙をつくかのように，追いついた戦自隊員の銃弾が二人に襲いかかる．シンジをかばいつつ，扉のなかに逃げ込む．
シンジをかばったためミサトは，傷を負ってしまった．その傷をかばいつつ，シンジに話しかける．
「いい，シンジ君．ここから先はもうあなた一人よ．すべて一人で決めなさい．誰の助けもなく．」
しかしシンジは戦おうとはしない．
「ぼくはダメだ．ダメなんですよ．人を傷つけてまで，殺してまでEvaに乗るなんて，そんな資格無いんだ．ぼくは，Evaに乗るしかないと思ってた．でも，そんなのごまかしだ．何も解ってないぼくにはEvaに乗る価値もない．ぼくには人のために出来る事なんて，何もないんだ．アスカにひどい事したんだ．カヲル君を殺してしまったんだ．優しさなんてかけらもない，ずるくて臆病なだけだ．ぼくには人を傷つけることしかできないんだ．だったら何もしない方がいい！」
「同情なんかしないわよ．自分が傷つくのがいやだったら，何もせずに死になさい．いま，泣いたってどうにもならないわ．自分が嫌いなのね．だから人を傷つける．自分が傷つくより，人を傷つけたほうが心が痛いことを知っているから．でも，どんな思いが待っていても，あなたが自分一人で決めたことだわ．価値のあることなのよシンジ君．あなた自身のことなのよ．誤魔化さずに，自分の出来ることを考え，償いは自分でやりなさい．」
「ミサトさんだって，他人のくせに！何も解ってないくせに！」
「他人だからどうだっていうのよ！あんたこのままやめるつもり，いまここで何もしなかったら，私許さないからね．一生あんたを許さないからね．いまの自分が絶対じゃないわ．後で間違いに気づき，後悔する，私はその繰り返しだった．ぬか喜びと自己嫌悪を重ねるだけ，でも，そのたびに前に進めた気がする．」
「いい，シンジ君．もう一度Evaに乗ってケリを付けなさい．Evaに乗っていた自分に，なんのためにここにきたのか，なんのためにここにいるのか，いまの自分の答えを見つけなさい．そして，ケリを付けたら，必ず戻ってくるのよ．」
父親の形見のペンダントをシンジに渡すミサト．
「約束よ．行ってらっしゃい．」
ミサトはシンジの唇を奪う．
「大人のキスよ．帰ってきたら続きをしましょう．」
不意に，エレベーターの扉が開き，シンジは倒れるように乗り込む．瞳に移ったのは，優しくほほえむミサトの顔であった．
そして，力つき崩れた落ちたミサトは，最愛の男に向かって語りかける．
「加持君，あたしこれでよかったわよね．」
瞬間，爆発が起きミサトを飲み込む．
そのミサトを見つめるようにレイが立っていた．
エレベーター内．自分の手に着いた，ミサトの血．シンジはあふれる涙を拭うことしかできなかった．
ジオフロント内，アスカの死闘は続いていた．戦うために戦う．そこに意味はない．量産型の槍を奪い，突き，薙払う．何かに取り付かれたように，彼女は戦う．
時を同じくして，シンジは第七ケージにたどり着く．しかし，そこにはベークライトに固められ，動かすことの出来ない初号機の姿があった．
ターミナルドグマ．リリスの元にたどり着いたゲンドウとレイを待っていたのは，リツコであった．そして，銃口をゲンドウに向ける．
奪った槍で量産型を胴体部で両断する．噴き出す血飛沫．戦いは続く．
リツコの最後の願い．それは，母と，そしてゲンドウと共に死ぬことだった．携帯端末のスイッチにふれる．ビープ音．しかし，プログラムは走らない．あわてて画面を見る．カスパーによる否定が表示されていた．
「かあさん，娘よりも自分の男を選ぶのね．」
リツコに銃口を向けるゲンドウ．
「赤城リツコ君．本当に・・・・・」
その言葉は，リツコにしか聞こえなかった．優しい顔になり彼女は呟く．
「嘘つき．」
銃口が火を噴く．衝撃で，リツコはLCLに投げ出された．
ジオフロント．弐号機，活動限界まで後一分．憤怒の表情で戦うアスカ．
「負けてらんないのよ！ママがみてるのに！！
「ママ，かあさん．」
その言葉を聞き，ケージの中で呟くシンジ．
量産型の体を手刀で貫き，最後の一機ののコアを鷲掴みにする． 絶叫．
その時，背後から量産型の槍が襲いかかる．AT
FILEDを張り防御する弐号機．しかし槍が変形し，その正体を現す．
「ロンギヌスの槍」
AT FILEDを貫くロンギヌスの槍．そのまま弐号機の左目に突き刺さり，貫通する．そして槍は弐号機の頭部を串刺しにしたまま，大地に垂直にたった．
絶叫し，左目から大量の血を流しながらコントロールレバーを狂ったように動かすアスカ．しかし，弐号機は動かない．
「内蔵電源終了，活動限界です．Eva二号機沈黙．」
第二発令所内で放心したように呟くマヤ．そして．
「なにこれ，倒したはずのEvaシリーズが．」
そう，倒したはずの量産型が再び動き出した．腕を失ったまま．頭部を短針で貫かれたまま．頭部を破壊され脳をむき出しにしたまま．
翼を広げ，威嚇するように空に舞ってから弐号機に襲いかかる量産型．その姿は腐肉に集る餓鬼の姿である．
「もうみれません．みたくありません！」
モニターから目をそらし，口元を押さえるマヤ．モニターに映し出されたのは蹂躙されていく弐号機のデータであった．
量産型が再び空に舞う．弐号機の筋肉や腑を引きずり出すように，口にくわえながら．
内蔵電源を失い，蹂躙された弐号機．動かないはずの弐号機．それでもアスカの破壊衝動にシンクロしたのか，装甲を無くし，内部組織をむき出しにしたまま，動き始める．暴走である．アスカは，左手で傷ついた左目を押さえ，右手を空に伸ばし，つぶやき続ける．
「殺してやる．殺してやる．殺してやる．．．．．．殺してやる！」
空に伸ばした右手が裂ける．同時に，正体を現したロンギヌスの槍が弐号機を貫く．
「シンジ君，弐号機が，アスカが，アスカが！！」
マヤの悲痛な叫びがケージ内に反響する．
しかし，シンジは呆然と初号機を見つめたまま，呟いた．
「だってEvaに乗れないんだ，どうしようもないんだ．」
その瞬間，ベークライトを割って初号機が動き出した．キャットウォークにうずくまるシンジをつかむかのように．
「かあさん．」
その衝撃を感じ，ゲンドウが呟く．
「初号機が動き出したか．
それも，彼の予定のなかには組み込まれているのだろうか．
ピラミッド型と呼ぶには，すでにいびつに変形してしまったネルフ本部を閃光が貫く．弐号機の復活の時とは比べものにもならないほどの巨大な十字の閃光が現れる．そして，砂嵐を起こしながら，翼を広げた初号機がジオフロントに現れた．
「エヴァンゲリオン初号機，まさに悪魔か．」
戦自の隊員が呟く．
しかし，エントリープラグ内のシンジの表情は，戦闘を前にした高揚も使命を果たすのだという決意もなく，ただ，困惑と冷静さが入り交じっているようであった．
「アスカ」
空を見上げるシンジ．
その目に映ったのは，装甲版が破壊され，目が垂れ下がり，脳がこぼれだしている弐号機の頭部をくわえながら，勝利を誇るかのように空を舞う量産型の姿であった．
そして，シンジの絶叫だけが，響いた．
つづく．
ご意見，ご感想はこちらまで．
e-mail:niwasaki@pg.enveng.titech.ac.jp