THE
END OF EVANGELION
REPORT
第26話 まごころを、君に
ターミナルドグマ．向かい合うゲンドウとレイ．そして，ゲンドウの口から彼の望みが語られる．
「アダムはすでに私とともにある．ユイと再び逢うにはこれしかない．アダムとリリスの禁じられた融合だけが．」
突然，レイの左手が崩れ落ちる．
「時間がない．AT FILEDがおまえの形を保てなくなる．始めるぞ，レイ．AT
FILEDを，心の壁を解き放て．欠けた心の補完，不要な体を捨て，すべての魂を今一つに，そして，ユイの元へいこう．」
ゲンドウの望み，それはユイの元へ行くこと．すなわち，すべての人類が初号機へと還ることであった．
ゲンドウの手がレイの乳房を無造作につかむ．と，ゼリーでもつかむかのようにその手がレイの中へとめり込んでいく．
ジオフロント．ピラミッド型と呼ぶには，すでにいびつに変形してしまったネルフ本部を閃光が貫く．弐号機の復活の時とは比べものにもならないほどの巨大な十字の閃光が現れる．そして，砂嵐を起こしながら，翼を広げた初号機がジオフロントに現れた．
しかし，エントリープラグ内のシンジの表情は，戦闘を前にした高揚も使命を果たすのだという決意もなく，ただ，困惑と冷静さが入り交じっているようであった．
「アスカ」
空を見上げるシンジ．
その目に映ったのは，装甲版が破壊され，目が垂れ下がり，脳がこぼれだしている弐号機の頭部をくわえながら，勝利を誇るかのように空を舞う量産型の姿であった．
そして，シンジの絶叫が響いた．
「碇君？」
その叫びに答えるレイ．
その絶叫の中，初号機の翼が十字の形を描き，その十字架に拘束されたように活動を止めた．その初号機に反応し，月面に刺さっていたロンギヌスのやりが飛来，突き刺さるかのように初号機の喉元にたどり着くと，その動きを止めた．
「ついに我らの願いが始まる．」
「ロンギヌスの槍もオリジナルがその手に帰った．」
「いささか数が足りぬが，やむを得まい．」
そう，ゼーレによる補完計画が始まるのである．
モノリスが唱和する．
「Evaシリーズを本来の姿に，我ら人類に福音をもたらす，真の姿に．等しき死と祈りを持って，人々を真の姿に．」
「それは魂の安らぎでもある．では，儀式を始めよう． 」
量産型がくわえていた弐号機の残骸を投げ捨てる．量産型の持つロンギヌスの槍が伸長し，初号機の両掌を貫く．そして，拘束された初号機の翼に食らいつき，その機体を上空へと拘引していく．
エントリープラグの中で自分の掌を見つめるシンジ．掌には痣が出来ている．ゼーレはその痣を聖痕と呼んだ．
「今こそ，中心の木の復活を」
「我らが僕，Evaシリーズは，皆，この時のために」
EvaシリーズのS2機関が解放され，UNTI A.T.FIELDが展開される．発光するEvaシリーズ．そして，空中にセフィロトの木の姿を描き出す．その状況をモニターするマヤ．データが高速でスクロールするディスプレイにのキャプションには，2000と，2015の文字がある．
「すべての現象が，15年前と酷似している．じゃ，これってやっぱりサードインパクトの前兆なの．
」
S2機関が臨界に達し，さらに輝きを増すEvaシリーズ．その光を見上げながら戦自の隊長が呟く
「作戦は，失敗だったな． 」
S2機関の解放により生み出された膨大なエネルギーは，地面を融解・掘削し，それによりジオフロントの外殻部が露呈していく．そして，その姿こそがジオフロントの真の姿，「黒き月」である．冬月が呟く．
「人類の，生命の源たるリリスの卵，黒き月．今更，その殻の中へと還ることは望まぬ．だがそれも，リリス次第か．」
リリス，すなわちレイはゲンドウと共にあった．
「事が始まったようだ．さあ，レイ，私をユイのところへ導いてくれ．」
そのレイの胸が収縮し，のめり込んだままの手を飲み込む．
「まさか．」
そして，呟く．
「私は，あなたの人形じゃない．」
「おお，何故だ．」
「私は，あなたじゃないもの．」
「レイ！ 」
失われた左手が復元する．そして，宙に浮きリリスの元へといく．
「頼む，待ってくれ，レイ．」
すがりつくゲンドウ．しかし，レイは冷たく言い放つ．
「ダメ，碇君が呼んでる．」
「レイ．」
リリスの胸元にたどり着くレイ．
「ただいま」
「おかえりなさい」
リリスの胸元が縮動し，触手が伸びる．その触手がレイを飲み込むと，欠けたものが補われたように，リリスの体が変化を始める．両掌が粘着質のものに変質したかのようにくいをすり抜け，その巨体がL.C.L.に倒れ込む．その衝撃で，L.C.L.が宙に舞い，雨のようにゲンドウの体をぬらす．水面に浮かぶリツコの服は，すでに体はなく，波に漂うだけだった．リリスは倒れた体を起こすと，次第にその姿を人の形に変えていった．
すでに戦闘の治まった，第二発令所．健在なのは３人のオペレーターと冬月だけである．そこでも，異変は関知されていた．
「ターミナルドグマより，正体不明の高エネルギー体が急速接近中！」
「AT FILEDを確認，識別パターン青，」
「まさか，使徒」
「いや，違う，人，人間です！ 」
そのこと場と共に，リリス，いやレイが第二発令所に姿を表す．実体を持たないのか，その手がマヤの体をすり抜け，さらに，巨大化したレイが第二発令所を抜けていく．その手がマヤの体を通り抜けていく．絶叫するマヤ．
そのころシンジは，十字架を見つめながら，自分の無力さに歯がみし，
「畜生，畜生，畜生．」
と，うめくことしかできなかった．そのシンジの目の前に巨大化したレイが現れる．
「綾波，レイ．」
シンジが名前を呟く．その瞬間，空洞だった眼窩を閉じ，再び開かれた目には瞳が出来ていた．
絶叫するシンジ．
補完は次のフェイズに移行する．初号機の拘束を解き，レイの周りを取り囲み，自らの核にロンギヌスの槍を突き刺すEvaシリーズ．そのA.T.FIELDが共鳴し，レイとの同化を始める．口の中からレイの顔が表れ，また，さらに，その頭部にレイの顔が増殖していく．弐号機に頭部を破壊されたものは，脳をむき出しにしながら，シンジを上目遣いに見る．極限まで追いつめられ，ミサトからもらった十字架にすがるシンジ．
「もういいのかい．」
「ここにいたの，カヲル君．」
レイの姿がカヲルに変わる．その姿を見て語りかけるシンジ．と，初号機のコアが現れる．そして，ロンギヌスの槍がコアに飲み込まれていき，生命の木へと変質していく．
冬月が呟く．「使徒の持つ生命の実と，人の持つ知恵の実，その両方を手に入れたEva初号機は神に等しき存在となった．そして今や，命の大河たる生命の木へと還元している．この先に，サードインパクトの無から人を救う方舟となるか，人を滅ぼす悪魔となるのか，未来は，碇の息子にゆだねられたな．」
青葉の服をつかみながらヤマが問いかける．
「私たち，正しいわよね．」
「解るもんか．」
そう，何が正しいかなどわからない．それでも，生きていくことをやめることはできない．
失った友を再び得て，幸せそうに，恍惚の表情さえ浮かべるシンジにユイの声が聞こえる．
「今のレイはあなた自身の心，あなたの願いそのままなの，何を願うの．」
夕暮れ時の公園，砂遊びをする三人の子供．シンジの独白．何も変わらない日常，自分から壊すことのできない，壊すつもりもない日常．その日常が，何か変わると思って此処にきた，チェロを始めたときと同じように，
「シンジ君もやりなよ．がんばって完成させようよ，お城．」
「うん．」
赤い髪をした人形と，青い髪をした人形．
しかし，人形は迎えに来たママと帰ってしまう．一人になったシンジ．それでも，ピラミッド型の城を完成させる．と，突然それを壊し出す．壊れたお城．泣き出すシンジ．涙を流しながら，一人で城を直し始める．
「あ，もー．あんたみてるとイライラするのよ．」
怒鳴りつけるアスカ．
「自分みたいで．」
つぶやき返すシンジ．
「ママ！」
人形を抱え，泣きながら呼びかける幼いアスカ．
「結局シンジ君の母親にはなれなかったわね．」
ミサトのつぶやき．
シンジの目前で行われる，若き日のミサトと加持の痴態．
「たぶんね，自分がここにいることを確認するために，こういう事するの．」
シンジに語りかけるミサト．それに反駁するアスカ．
「ばっかみたい，ただ寂しい大人が慰め合ってるだけじゃないの．」
問いかけるシンジ．
「これが，こんな事してるのがミサトさん？」
答えるミサト．
「そうよ，これも私．お互いに解け合う心が映し出す，シンジ君の知らない私よ．ホントのことは結構痛みを伴うものね．それに耐えなきゃね．」
「あーあ，私も大人になったらミサトみたいな事するのかなー．」
アスカの呟き．
回想，アスカとのキス．
しかし，激昂するアスカ．
「何も解ってないくせに，私のそばにこないで」
「解ってるよ．」
言い訳のように口にする，シンジ，アスカはさらにそのシンジを追いつめる．
「解ってないわよ，バカ！あんた私のこと解ってるつもりなの．救ってやれると思ってるの．それこそ傲慢な思い上がりよ！解るはず無いわ！」
「解るはず無いよ．アスカなんにも言わないもの，何も言わない，何も話さないくせに解ってくれなんて，無理だよ！」
「碇君は解ろうとしたの．」
突然，レイに突きつけられる事実．
「解ろうとした．」
いいわけをするシンジ．しかし，さらにアスカに詰め寄られ，「オカズ」にしているという，自分の欲望を突きつけられる．そして，呟くアスカ．
「あんたが，全部私のものにならないなら，あたし，もういらない．」
「だったら僕に優しくしてよ．」
激昂するシンジ．
「優しくしてるわよ．」
「嘘だ！笑った顔で誤魔化してるだけだ，曖昧なままにしておきたいだけなんだ．」
「本当のことはみんなを傷つけるから．それは，とてもとてもつらいから．」
「曖昧なことは，僕を追いつめるだけなのに．」
「その場しのぎね．」
そして，真情を吐露するシンジ．
「このままじゃ怖いんだ．いつまたぼくがいなくなるかもしれないんだ．ざわざわするんだ，落ち着かないんだ．声を聞かせてよ．ぼくの相手をしてよ．ぼくにかまってよ．」
第三新東京市，二人が暮らしていたミサトの家．
アスカに救いを求めるシンジ．しかし，アスカは相手にしない．自分に縋るのが逃げでしかいないこと，それが，一番楽で傷つかないこと．シンジを断罪するアスカ．それでもアスカに縋るシンジ．
「ホントに他人を好きになったこと無いのよ．」
アスカに追いつめられ，コーヒーサーバーを倒しながら，自らも倒れるシンジ．
「自分しかここにいないのよ．その自分も好きだって感じたこと無いのよ．」
そのシンジを見下ろし，あざけるように呟くアスカ．
「哀れね．」
「助けてよ，ねえ，誰かぼくを，お願いだからぼくを助けて，助けてよ，ぼくを助けてよ．一人にしないで，ぼくを見捨てないで，ぼくを殺さないで．」
激昂するシンジ．しかし，アスカは間違いようもなく，はっきりと宣告する．
「いや．」
うつむいたまま，アスカの首を絞めるシンジ．一瞬だけ垣間見えた瞳に見えたのは，憎しみだろうか，悲しみだろうか．フラッシュバックする情景．ナオコがレイの首を絞めるシーンと重なる．
子供が書いたような幼稚な絵．そして，汚れを知らぬが故の，残虐な絵．
独白するシンジ．それに問いかけるレイ．
「誰も解ってくれないんだ．」
「何も解っていなかったのね．」
「やな事はなんにもない，裏切りのない世界だと思っていた．」
「他人も自分と同じだと一人で思いこんでいたのね．」
「裏切ったな，僕の気持ちを裏切ったんだ．」
「はじめから自分の勘違い，勝手な思いこみにすぎないのに．」
「みんなぼくをいらないんだ．だからみんな死んじゃえ．」
「では，その手はなんのためにあるの．」
「ぼくがいてもいなくても誰も同じなんだ．何も変わらない．だからみんな死んじゃえ．」
「では，そのこことはなんのためにあるの．」
「むしろいない方がいいんだ．だからぼくも死んじゃえ．」
「では，何故ここにいるの．」
「ここにいてもいいの．」
（無言）
シンジの求めていた答え，それは得られない．
第二発令所．すべてが終局へ向かう中，それでも現実を見続ける人々．そして，最後の瞬間が告げられる．
「リリスよりのUNTI AT FIELDさらに拡大．物質化されます．」
地球の気圏を貫くほど巨大な，12枚の翼を持つレイが現れ，優しく，その両手でジオフロントを包み込むようにする．
「UNTI A.T. FIELD臨界点を突破．」
「ダメです，このままでは個体生命の形が維持できません．」
「ガフの部屋が開く．世界の，始まりと終局の扉が，ついに開いてしまうか．
」
「世界は悲しみに満ち満ちていく．むなしさが人々を包み込んでいく．孤独が人の心を埋めていくのね． 」
戦自との戦闘により死んだネルフ職員の死体が，LCLに還っていく．一人一人の死体にはそれぞれを見下ろしているレイの姿があった．そして，その中にはミサトやリツコの洋服もあった．
第二発令所．最後まで現実を見続けてきた彼らにも，補完の時が来た．椅子に座ったまま日向にレイがにじり寄ってくる．その姿はいつしかミサトへと変わる．ミサトを抱き返そうとしたとき，彼はLCLに還る．
コンソールの下に隠れようとする青葉．しかし，彼はたくさんのレイににじり寄られ，LCLに還る．
「碇，おまえもユイ君にあえたのか．」
宙を舞っていたレイの姿がユイに変わる．その手が冬月の頬を包み込むようにしたとき，彼もLCLに還る．
「AT FILEDがみんなのAT FILEDが消えていく．これが答えなの，私の求めていた．」
キーボードをたたこうとする手がふるえてうまくできない．その時，後ろから手が伸び，キーボードを叩き出す．振り向くとリツコの姿があった．
「先輩．先輩，先輩，先輩，先輩！」
リツコに抱きつくヤマ．それを包み込むリツコ．そして，彼女もLCLに還る．
ノートのディスプレイに記されていた文字，最後の言葉はこうであった．
I NEED YOU
ゼーレのモノリスも一つ，そしてまた一つ消えていく．それを見ながらキールが独白する．
「始まりと終わりは同じところにある．よい，すべてはこれでよい．」
彼もLCLに還る．体が崩れ落ちる時，赤く燐光を放つ小球が飛び立っていった．そして，その体には機械化されている部分さえあった．
一人，横たわるゲンドウ．その目前にもユイが現れた．
「この時を，ただひたすら待ち続けていた．ようやくあえたな，ユイ．俺がそばにいると，シンジを傷つけるだけだ．だから，何もしない方がいい．」
語りかける，ユイ．
「シンジが怖かったのね．」
「自分が人から愛されるとは信じられない．私にそんな資格はない．」
「ただ，逃げてるだけなんだ．自分が傷つく前に，世界を拒絶している．」
ゲンドウの枕元に立つカヲルが語りかける．
「人のあいだにある，形もなく，目にも見えないもが怖くて，心を閉じるしかなかったのね．
足元に立つ，レイも語りかける．
「その報いがこの有様か．済まなかったな，シンジ．」
そして彼は，初号機に頭から喰い千切られる．これが，彼の望んだ終局であるかのように．
上半身を失った彼の体のそばに愛用の眼鏡が落ちている．それを拾うレイ．それは，一人目のレイ，二人目のレイ，三人目のレイであった．
世界中を光と赤いベールが多い，光の十字架が立ち，世界中の人々がL.C.L.へと還っていく．その体から飛び立った小球は黒い月に集めれら，そして，レイの掌から吸い込まれていく．
そして，シンジに対する，拒絶の言葉が，繰り返される．
ささやきかけるミサト．
「そんなにつらかったら，もうやめてもいいのよ．
ささやきかけるレイ．
「そんなにいやだったら，もう逃げ出していいのよ．」
「楽になりたいんでしょ．安らぎを得たいんでしょ．私と一つになりたいんでしょ．心も体も一つに重ねたいんでしょ．」
そして，拒絶．
「でも，あなたとだけは，絶対に死んでもいや．
」
レイの額が縦に裂け，そこに瞳が現れる．そこにのみ込まれていく生命の木．
墜落して行くかのように，光が遠ざかっていく．
実写シーン．客席に誰もいない映画館．
どこにでもある街角．走る電車．電柱．看板．猫．遠くに見える巨大なビル．
第三新東京市
夢について語り合うシンジとレイ．現実と夢の境界線，ただの虚構にすぎない，現実の埋め合わせにすぎない，夢．
映画館．多くの人が虚構の始まりを待っている．
そして，再び，からの映画館の情景．
「じゃあ，僕の夢はどこ．」
「それは，現実の続き．」
「ぼくの現実はどこ．」
「それは，夢の終わりよ．」
首に裂け目が入り，体内に吸い込んだ光球を吹き出すレイ．その血飛沫は月にかかり，さらに軌道に乗り，そして輪になる．
L.C.Lの海の中．A.T. FIELDを失い，自我というものが意味を失った世界．そこで，体まで溶け合いながら語り合うレイとシンジ．そして，レイに問いかける．
「ぼくは死んだの．」
「いえ，すべてが一つになっているだけ．これがあなたの望んだ世界．そのものよ．
「でも，これは違う，違うと思う．」
「他人の存在を今一度望めば，再び心の壁がすべての人々を引き離すわ．また，他人の恐怖が始まるのよ．」
「いいんだ．ありがとう．」
溶け合った体を，二つに分け，そのレイの手を握るシンジ．
海の底だろうか．レイに膝枕されているシンジ．目の前をミサトからもらった十字架のペンダントが漂っている．シンジが呟く．
「あそこでは，いやなことしかなかった気がする．だからきっと逃げ出してもよかったんだ．でも，逃げたところでもいいことはなかった．だって，ぼくがいないのも，誰もいないのと同じだもの．」
「再び，AT FILEDが君や他人を傷つけてもいいのかい．」
問いかけるカヲル．見つめ合いながら答えるシンジ．
「かまわない．でも，ぼくの心の中にいる君たちは何．」
「希望なのよ．人は互いに分かり合えるかもしれない，ということの．」
「好きだという言葉と，ともにね．」
次々と変わる，三人の見つめ合う風景．そして，シンジが語りかける．
「だけど，それは見せかけなんだ．自分勝手な思いこみなんだ．祈りみたいなものなんだ．ずっと続くはず無いんだ．いつかは裏切られるんだ．ぼくを見捨てるんだ．でも，僕はもう一度会いたいと思った．」
その脳裏にあるのは，第三新東京市に来てであった，Evaに乗ることによって出会えてみんなのほほえんでいる姿だった．
「そのときの気持ちは本当だと思うから． 」
リリスの瞳を引き裂きながら現れた初号機は，その翼を再び広げる．黒き月が 受精卵が分裂するように，分かれ，赤い液体が流れ出ていく．レイの体は崩壊し，地上へと落ちていく．その体からも赤い小球が逃げていく．初号機のからロンギヌスの槍が吐き出され，その形はさらにメビウスの輪を描き，そこから光が放たれる．その光を受けると，量産型のコアを貫いたロンギヌスの槍が爆発し，Evaシリーズも地上へと落ちていく
語りかけるレイとカヲル．
現実は自らの力で変えていけるということ．変えていかねばならないということ．そして，自ら望むならば，誰もが人の形に戻れるということ．
ユイが語りかける．
「心配ないわよ．すべての生命は復元しようとする力がある．生きていこうとする心がある．生きていこうとさえ思えば，どこだって天国になるわ．だって，生きているんですもの．幸せになるチャンスは，どこにでもあるわ．太陽と月と地球があるかぎり．大丈夫．」
「もういいの．」
問いかけるユイ．それに答えるシンジ．生きることは，当たり前のこのと繰り返しなのだ，と．
赤い海の上に現れるシンジ．現実に還った彼の目前に広がるのは，Third
Impact後の荒涼とした世界．遠くには，半分に断たれたレイのかをが見える．そして，シンジが問いかける．
「でも，かあさんは，かあさんはどうするの．」
2003年，冬月とユイが語り合っていた．
「人が，神に似せてEvaを作る．これが，真の目的かね．」
「はい．人はこの星でしか生きられません．でも，Evaは無限に生きていられます．その中に宿る人の心と共に．たとえ50億年経って，この地球も月も，太陽すらなくしても残りますわ．たった一人でも生きていけたら．とても寂しいけど，生きていけるなら．」
「人の生きた証は，永遠に残るか．」
太陽が，地球が，月が遠ざかっていく．そして，装甲がまるで遺跡のように赤褐色に変色し，ひび割れた初号機と，メビウスの輪状に姿を変えたロンギヌスの槍も遠ざかっていく．
そして，シンジが語りかける．
さようなら，かあさん．
THE END OF
EVANGELION
ONE MORE FINAL
I NEED YOU
変わり果てた世界．その波打ち際．シンジとアスカが並んで横たわっている．
遠くには，半分しか残っていないレイの顔や，十字架のようにたつ量産型が見える．シンジが作ったのだろうか，ミサトの墓だとでも言うように，十字架のペンダントヘッドが木の杭に打ち付けられている．
アスカの胸越しに視線をとばすシンジ．レイの姿が見える．しかし，その姿はすぐに消えて無くなる．
シンジは横にいるアスカに馬乗りになり，その首を絞める．
アスカが気づいたのか，手を挙げて，シンジの頬にふれる．その目は開かれてはいたが，虚ろなままである．シンジは手をゆるめる．その涙がアスカの頬に落ちる．
アスカの目だけが動く．そしてつぶやく．
「きもちわるい」
終劇
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